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受診について

当科の特色

口腔がん手術:コンピューター支援による下顎再建・3Dモデルと手術用ガイドを用いたアプローチ

Ⅰ.医療とデジタルテクノロジー

近年,医療分野においても様々な領域でデジタルテクノロジーが導入され良好な成績が報告されています。 ここでは、当院で行っている、コンピューターによるシミュレーションとこれに基づいて設計された3Dモデルおよびガイドを用いた下顎再建のアプローチについて述べます。

Ⅱ.下顎再建について

下顎再建とは、がんを含む腫瘍性病変や顎骨壊死など種々の原因により下顎が欠損した場合、その機能および審美性を回復する治療方法のことを指します。 今回は、腓骨を用いた下顎再建について記載しています。

Ⅲ.コンピューター支援下手術の実際

  1. 術前:シミュレーション~3Dモデルおよび手術用ガイドの製作 1)CT画像データから下顎骨および腓骨の 3D 画像を構築 2)デジタルシミュレーション…切除範囲の決定と再建する下顎の確認 3)3D プリンターによるシミュレーションモデルの造形 4)各種手術用ガイドの製作と準備
  2. 手術:3Dモデルおよび各種ガイドを用いた手術
  3. 術後:形態的および機能的評価

Ⅳ.優位性について

  1. より審美性および機能的に優れた結果が得られやすくなります
  2. 手術に伴う各種合併症の軽減につながると考えられます
  3. 再現性も良好であるため,術後早期の義歯が装着可能となります。さらに骨造成からインプラント埋入へもスムーズに移行しやすくなります
図1 デジタルシミュレーション A:下顎再建のイメージ  B:下顎切除用ガイド  C:腓骨移植用ガイド
図2 3Dモデルと手術用ガイド A:下顎のシミュレーションモデル  B:下顎切除用ガイド  C:腓骨移植用ガイド
図3 下顎形態と口腔内所見および3D-CT画像 A:術前下顎形態  C:術後下顎形態  E:術後の3D-CT B:術前口腔内   D:術後口腔内

自己血由来の生体糊の使用

当科においては舌、頬粘膜腫瘍(主に悪性腫瘍)に対し切除を行った際に粘膜の欠損部に吸収性ポリグリコール酸シートを貼付し自己血フィブリン糊を用いて被覆しております。従来は献血由来の生体糊製剤を使用しておりましたが、非自己由来の製剤使用によるアレルギー反応やウィルス感染症などの危険性が皆無ではない為、自己血由来のフィブリンを精製し用いております。(※術前に採血が必要になります。欠損範囲によっては本方法が適応できない症例もあります。)
全自己フィブリン糊調製システム(クリオシールシステム) 参考:https://www.asahi-kasei.co.jp/medical/pdf/cryoseal/cryoseal_catalog.pdf

良性腫瘍に対する反復処置手術

エナメル上皮腫などの顎骨腫瘍などに対して,下顎骨区域切除術がしばしば行われています。そして,顎骨切除後の顎骨再建では,Donor部を含めた手術侵襲、顎骨連続性の回復だけでなく,審美的な再建部形態・強度などの配慮が必要となります。 反復処置法は顎骨腫瘍の摘出後に開窓処理を行い、さらに再生骨の促進を目的として骨創面を覆う瘢痕組織と新生骨を除去する反復処置を数か月おきに行う治療方法です。複数回の手術と長期の経過観察が必要ですが、顎骨の連続性の温存が期待でき、口腔機能維持や顔貌の変化防止に有用です。 また当科では内視鏡を用いた低侵襲な治療を行っています。内視鏡を用いることで骨の削除量も最小限にして病変を摘出できるだけでなく、口の外から切開が必要と診断された場合でも、内視鏡を用いることで口の中だけから病変を摘出することも可能です。

左 手術後、右 手術前

難治性骨髄炎に対しての硬性再建

顎骨骨髄炎は口腔内細菌による感染が骨髄に波及して引き起こされる難治性の疾患です。早期に適切な治療を行えば治癒可能ですが,進行してしまうと顎骨の離断が必要になり,咬めない,飲み込めない,話せないなど重要な口腔機能が失われるだけでなく,顔の形や整容性にも影響が出ます。そのため,顎骨を離断する場合には,腓骨や腸骨,金属プレートなどを用いて顎骨欠損を補う顎骨再建手術が行われます。当科では手術前に顎骨の形や口腔機能を見据えたシミュレーションを行い,コンピューター支援下に個々の患者さんに適した顎骨再建手術を行っています。さらに,再建した顎骨に歯科インプラントや義歯を適用して,口腔機能と顔貌形態の回復を目指した治療を行っています。 口蓋がん(粘表皮癌)治療後の放射線性上下顎骨壊死に対する腓骨および前外側大腿皮弁による再建

顎関節症・口腔顔面痛診療

当科は,日本顎関節学会と日本口腔顔面痛学会の研修機関であり,担当医の多くは日本口腔外科学会,日本顎関節学会や日本口腔顔面痛学会の専門医・指導医と,複数の資格を取得しています。宮城県内だけでなく,東北各県から来院される多くの顎関節症や口腔顔面痛の患者様の診断・治療・疼痛管理を行なっています。歯科だけでなく院内外の医科からの紹介も多く,他の三次医療機関からも紹介を頂いております。

1.顎関節症

  1. 顎関節症は,顎関節や咀嚼筋の痛み,関節音,開口障害ないし顎運動異常の3症候の少なくとも1つ以上を有し,類似する症候を生じる疾患を除外することで診断します。鑑別すべき疾患は多岐にわたり,当科は顎関節症と他の疾患との鑑別診断を確実に行い,病態に応じた適切な治療が受けられるように務めています。
  2. 顎関節症は筋性顎関節症(咀嚼筋痛障害)と関節性顎関節症(顎関節痛障害,顎関節円板障害,変形性顎関節症)とに大別されます。筋性顎関節症は,咀嚼筋の触診を入念に行って圧痛点,特にトリガーポイントを同定することを重視しています。筋膜リリースを行うことで,即効性に痛みが軽減し,開口ができるようになる場合も少なくありません。
  3. 関節性顎関節症については,MRIやCTなどの画像検査を駆使し,顎関節を構成する組織(円板や下顎頭,下顎窩,滑膜,円板後部組織,関節包など)のどこに問題があるのかを正確に診断しています。
  4. 顎関節症発症に関与する習癖や行動因子を是正するためのセルフケアを指導し,理学療法,薬物療法を実施しています。こうした保存治療で大部分の顎関節症は改善しますが,関節腔内に高度の癒着がある場合や,画像検査で滑膜性軟骨腫症などの腫瘍類似病変が見つかった場合,手術が行われます。

顎関節症と誤認された副咽頭間隙の腺様嚢胞癌のMRI

2.口腔顔面痛

歯や顎関節,咀嚼筋に生じる痛みは,他の口腔顔面に関連痛を生じる一方,頭部や頸部,胸部の疾患が口腔顔面に関連痛を生じることがあります。また口腔顔面領域は他の部位より感覚が鋭敏であり,心理精神的な影響を受けやすいため,口腔顔面痛の診断と治療は難渋することが多いのが現状です。当科は,慢性口腔顔面痛に対して,疼痛構造化問診や神経診察,画像検査,血液検査を行い,痛みの原因疾患を診断しています。心理社会的因子も考慮して,歯科口腔外科で治療可能な疾患に対応し,必要に応じて医科(院内外のペインクリニック,脳神経内科,脳神経外科,頭痛専門医,耳鼻咽喉科,精神科)にコンサルトし,迅速に治療に結び付けていくように努めています。 口腔顔面部に痛みや感覚異常を生じる様々な疾患の患者様が受診されていますが,筋膜性疼痛および各種疾患による非歯原性歯痛(歯や歯周組織に原因がないにもかかわらず歯痛が感じられる状態),三叉神経痛,三叉神経ニューロパチー,原因不明の持続性特発性口腔痛が多いようです。特に咀嚼開始時に耳下腺に激痛を生じるファーストバイト症候群の治療と病態解明の研究を精力的に行い,成果を挙げています。 見逃してはいけない三叉神経ニューロパチーの症例

当科での顎関節疾患治療の特色

顎関節疾患に対する外科的治療で超音波器具や顎関節鏡を用いることで、出血や組織損傷が少ない低侵襲治療で安全かつ確実に行うことで良好な治療成績をあげています。 当科で取り扱う顎関節疾患には、①顎関節症 ②顎がよく外れる、口を閉じることができないといった顎関節脱臼 ③口腔顎顔面外傷や頭部の手術に後遺する顎運動障害、特に口を開けることができない顎関節強直症 ④顎関節腫瘍があります。 顎関節疾患の鑑別は必ずしも容易ではなく、本外来では専門医が丁寧な診察の上、必要なCTやMRIなどの画像診断を行い顎関節疾患を診断します。 顎関節疾患には保存的治療と外科的治療がありますが、顎関節症はほとんどが保存的治療で症状が緩和されます。一方で、顎関節脱臼や顎関節強直症では外科的治療が中心になりますが、当科では手術侵襲を少なくするため超音波切削器具などを用いて血管の損傷を回避したり、周囲組織のダメージを減らすことで良好な治療成果をあげています。さらに顎関節腫瘍に対する顎関節鏡手術は皮膚の切開痕も目立つことなく、術後の顔面神経麻痺を回避することができる安全な手術です。

顎関節強直症症例:超音波切削器具を用いた左顎関節授動術

滑膜性軟骨腫を顎関節鏡視下で診断・摘出

インプラント手術 シミュレーション・サージカルガイド・骨造成・広範囲顎骨支持型装置埋入手術

歯科インプラントセンターの特色 ・保険診療におけるインプラント治療である「広範囲顎骨支持型装置埋入手術」および「広範囲顎骨支持型補綴」の治療を行っております。 ・歯科インプラントセンターでは、口腔診断科、歯科顎口腔外科、歯周病科、咬合回復科、咬合修復科など複数の関連部門間の緊密な連携により、良質なチーム医療、患者中心のインプラント診療を提供しています。 ・インプラント材料は国内外の主要メーカーのものを取りそろえ、CT画像を用いたコンピュータシミュレーション診断システム、コンピューターガイデッドサージェリー、および補綴装置製作においてはCAD/CAMシステムを臨床応用しています。 また、難度の高い自家骨移植や、骨補填材料を用いた骨造成も行っております。

診療の流れ

ブロック骨移植術

サイナスリフト

GBR法

顎変形症治療の特色

従来、顎変形症の治療計画では頭部エックス線規格写真を基にしたCDS分析等の2次元のデータを利用しpaper surgeryが行われてきました。

当科では手術前に3Dシミュレーションソフトを使用し3次元的分析を行い、手術計画を立案しています。術前CTと上下顎骨歯列模型から咬合関係を基準としたシミュレーションを行い、下顎骨単独、もしくは上下顎骨両方を選択しています。

症例によって、シミュレーションデータから上顎骨の位置決めに使用するCAD/CAMスプリントを作製しています。CAD/CAMスプリントは精度が高く再現性も優れており、有用性が高いとされています。

参考文献: Yamaguchi Y, Yamauchi K, Suzuki H, Saito S, Nogami S, Takahashi T. The accuracy of maxillary position using a computer-aided design / computer-aided manufacturing intermediate splint derived via surgical simulation in bimaxillary surgery. J Craniofac Surg. 2020; 31: 976-979.

当科の外傷治療の特色

顎骨骨折、特に下顎骨の関節突起(顎の関節)部に対して内視鏡を用いた低侵襲手術を行なっています。

軟組織の損傷機械的損傷

切創、裂傷、挫滅傷などの外力が一過性に作用して生じる外傷と慢性的な外力によって生じる褥瘡性潰瘍があります。 温熱的損傷:火傷および凍傷。 放射線損傷:悪性腫瘍に対する放射線治療後にみられる。

歯の外傷

歯の打撲:外傷性歯根膜炎や歯髄壊死など。治療は歯の暫間固定、歯髄処置などを行います。 歯の脱臼:外力によって歯が歯槽窩から逸脱した状態。治療は完全脱臼で保存状態がよければ再植術、不完全脱臼では整復・固定処置を行います。 歯の破折:保存が可能な場合は歯冠修復や歯根端切除を行います。保存が不可能な場合は抜歯します。

顎骨骨折

顎骨骨折に対する治療には,保存的治療と外科的治療の2つの方法があります。保存的治療はゴムやワイヤーなどで顎を数週間固定して治療します。手術を行わなくてよいといった利点がありますが,治療期間が長くなることと開口障害が生じること,さらに骨折した顎骨が変形治癒を起こすといった欠点があります。これに対して外科的治療では治療期間は短期間になりますが、下顎骨の関節突起(顎の関節部分:耳の手前部)の骨折では一般的な外科的治療では皮膚を切開するため顔面神経麻痺や皮膚の瘢痕(傷)が術後合併症として問題になることがあります。そのため,われわれは治療期間を短縮させることと顔面神経麻痺と皮膚の瘢痕を回避することを目的に、下顎骨の関節突起骨折に対しては内視鏡を使用した低侵襲な治療(チタン製プレートでの固定)を標準的に行っています(図1-4)。この内視鏡支援下での骨折手術では皮膚切開は行わず、口腔内からのアプローチとしているため外から見ただけでは傷は目立ちません。

図1:左関節突起骨折の3D-CT写真。

図2:内視鏡画像(骨折部の確認)。

図3:内視鏡画像(プレート固定時)

図4:内視鏡画像(プレート固定後)

顎関節人工関節全置換術

顎関節人工関節全置換術の施設基準を東北厚生局から受理していただきました。
顎関節強直症、顎関節腫瘍、骨変形の著しい顎関節疾患等で日常の摂食・咀嚼が困難な症例や開口が困難な症例において、人工材料により下顎頭と関節窩の再建および全置換をする手術を行うことが出来ます。
2020年度診療報酬改定で顎関節人工関節全置換術として保険収載されました。マンディブラーインプラント(下顎枝コンポーネント/人工下顎骨関節突起)とフォッサインプラント(関節窩コンポーネント/人工関節窩)で構成されるTMJリプレイスメントシステム(Biomet Microfixation社)を用いて手術を行います。
https://www.zimmerbiomet.com/content/dam/zimmer-biomet/medical-professionals/cmf-thoracic/total-joint-replacement-system/total-joint-replacement-system-brochure.pdf

口唇裂口蓋裂治療

当科では、出生後まもない患者さんには、ご家族に哺乳指導と今後の注意事項、手術予定など治療の概要説明を行います。 口唇の形成手術は生後3〜6か月時に体重6kgを目安に行います。口蓋の形成手術は生後1歳半〜2歳頃にかけて体重10kgを目安に行います。なお口蓋形成の手術前に中耳炎のスクリーニングを行い、必要に応じて形成手術時に耳鼻科医による処置(鼓膜切開、チューブ留置等)も同時に行います。手術前あるいは手術後にも定期的に口腔内管理をいたしますので1か月〜3か月毎に受診していただきます。 他の歯科診療科と連携し、形成手術前から言語聴覚士による言語管理,2歳時より小児歯科でのむし歯予防管理,4歳時より歯科矯正管理を行います。顎裂のある患者さんには、永久前歯萌出後に顎裂部への骨移植術を行い、歯科矯正治療を行うことにより歯並びを整えます。骨移植部には自分の歯を並べますが、並べる歯が欠損している場合には成長終了後にインプラントやブリッジなどの補綴治療を行います。 上下顎の位置関係に不調和があれば必要に応じて上顎骨あるいは下顎骨の外科矯正(骨切り術)を行います。